アリシャ : : キャラクターストーリー

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我らの女神モリアンが存在する証が巫女だとしたら
異端が存在する証は魔女だ。
それが、我らが魔女を始末しなければならない最初の理由だ。

男の剣がアリシャの胸を突き刺した。

予想外の攻撃だった。何か怪しいと感じた時、剣先はすでに心臓に触れていた。剣に刺されたくらいで動揺している訳ではない。肉体の負傷などすぐに治癒できる。問題は魔法だった。胸の奥に冷気を帯びたオーラが入ってきた。男の剣にはこれまで感じたことのない古代ルーン魔法が付与されていた。封印のルーンだった。ルーン魔法はまるで猛毒のように体の隅々まで浸透し、魂さえも呑み込もうとしていた。これでもう終わりなのだろうか…。こんなあっけなく終わってしまうのか?もしそうだとしたら……。最後のもがきで男を道連れにするまでだ。

アリシャの体からとてつもない量のマナがあふれ出た。

たくさんの記憶が波のように押し寄せてきた。
過去と現在が混ざった記憶の波が、浮標のような彼女の意識を呑み込んでいった。
彼女は波に呑まれ、時という歴史をさかのぼり、最初の記憶にたどり着いた。

そして、すべての記憶が徐々に消えていった。

雨の日だった。

「この身の程知らずが!」

後見人のいない少女が外から子犬を拾ってきたことで、孤児院は大騒ぎになっていた。
子犬は目もまともに開けることができず、かろうじて呼吸していた。
誰が見ても危険な状態なのが分かるほど弱っていた。
しかし、孤児院の院長や教師たちはそんなこと気にも留めなかった。
むしろ、少女に向けて侮辱的な言葉を並べていた。

だが、少女は瞬きひとつしなかった。
子犬に飲ませるためのミルクを堂々と要求していた。

「早く外に捨ててきなさい。さもないとあんたも追い出すわよ!」

怒りを抑えきれなかった孤児院の院長は怒鳴り出した。
ところが、少女は怯まなかった。
少女は怒鳴り散らす院長に背を向け、子犬を抱きかかえたまま孤児院から出てきた。

だが、生まれてからずっと孤児院で暮らしてきた彼女に訪れる場所などなかった。
村の中を徘徊していた彼女は村の外につながる小道を見つけた。
しばらく誰も通っていないような道を辿ると、村の全景が見渡せる小さな丘が出てきた。
丘の上には捨てられた神殿があった。
少女は神殿でしばらく雨宿りをすることにした。

1着しかなかった洋服はずぶ濡れになり、時間が経つにつれて寒気を感じるようになった。
寒気を感じるたびに少女は胸の中にいる子犬を優しく抱き込んだ。

「なんとかなるよ、きっと!」

子犬に微笑みかけたあと、少女は顔を上げて村の全景を見ながら考えた。
黒い雲が吐き出すたくさんの雨粒が村の上に落ちている。
彼女は夜中に孤児院へ忍び込んで食べ物を調達することにした。

少女は突然すべての光景が遠い場所にあうように感じた。
まるで魂が身体から抜けたような身軽さを感じるとともに意識がはっきりしてくる。そして体は動かない。
またあの瞬間が来たと思った。

彼女はまれに、時が止まる瞬間を見ることができた。
風が止み、世界中が静けさに包まれる瞬間。草花や木の葉も微動だにしない瞬間。
広漠たる空の下、雨粒が宙に浮いた瞬間だった。
アリシャはこの神秘的な瞬間が好きだった。

遠くから雨音がだんだん近付いてくると、永遠に続きそうな沈黙は破れた。
時間が再び流れ出したのだ。

「今のあんたも見た?」

少女は好奇心に満ちた表情で子犬に聞いた。
子犬は意味が分からないと言わんばかりに少女の胸元へ顔をうずめた。

「面白いお嬢さんだな。」

少女の背後から誰かが話しかけてきた。
人の気配がなかった捨てられた神殿の中から、一人の男が出てきた。
足首までの長いローブを身にまとい、眼鏡をかけた男性は、学者のような雰囲気を醸し出していた。
年寄りでもないのに白髪で、髪の毛はひどく絡まっていた。

男は少女に近づき、自身が身にまとっていたローブを彼女の肩にかけてあげた。

「名前は何だい?」
「アリシャ。おじさんは?」

幼い少女、アリシャは男の質問に堂々と答えた。
おじさんと言われた男は声をたてて笑った
彼は「シェーン」と名乗った。
シェーンはこんな場所で何をしているのかとアリシャに尋ねてきた。
この丘はいつ魔族が出没してもおかしくない危険な場所だったからだ。
アリシャは抱きかかえた子犬を見せて事情を説明した。

事情を聞いたシェーンは子犬をじっと見つめては懐から魔法のスタッフを取り出した。
すると、スタッフの先端はほのかな光りを放ち、空中には意味不明な軌跡が描かれた。
軌跡はみるみるうちに文字へと変わり一瞬光っては消えた。

その瞬間、不思議なことに子犬の震えが止まった。
さっきまでぐったりしていた子犬が、今はアリシャの顔を見ながらしっぽを振っている。
元気になった子犬を見てアリシャは生まれて初めて心から笑った。

アリシャと子犬は神殿の前の広場でしばらく遊んだ。
雨が降っているのを忘れてしまうくらい明るく走り回る姿を見て、シェーンは優しく微笑んだ。

日が沈む頃、シェーンの提案で2人は子犬の飼い主を探すことにした。
丘を下って村中を回り、なんとか子犬の飼い主を見つけることができた。

アリシャは飼い主に抱きかかえられ去っていく子犬の姿を見て寂しそうに手を振った。
気づくと雨は止んでいて、澄んだ空気が流れていた。

「アリシャ。魔法を学んでみないか?」

孤児院に戻る道でシェーンがアリシャに言った。
男の質問にアリシャは迷いもせず、うなずいた。
即答する少女を見て、男はまた声をたてて笑った。

一方、アリシャは子犬を治したシェーンの魔法を思い浮かべていた。
そして奇跡のような瞬間を一生忘れまいと心に決めていた。

険しい森を通り抜けると、四方が山脈に囲まれた広い盆地が現れた。
ギシギシと音を立てる馬車は盆地に入った。
ここは王国が警戒令を出した北方地域付近に隠された隠密な場所で、
人間と魔族の2つの勢力は足を踏み入れることのできない魔術師たちの領域だった。

平原が広がる盆地の中心には、空に向かって立っている立派な塔が1つあった。
不思議なオーラに包まれた塔の形状はまるで周辺の全ての気を吸い込んでいるかのように見えた。
大陸最大の魔法学校として名の知れたイウェカの塔だった。
魔術師を目指す者なら誰もが憧れる場所だった。

シェーンとアリシャを乗せた馬車が塔の正門の前に着いた。
塔の不思議なオーラは、まるで2人を歓迎するかのように激しく波打った。

孤児院出身という独特な背景にも関わらず、アリシャはすぐに塔の生活に慣れた。
彼女のマナに対する感応能力はとても優秀だった。
一般的な魔術師はマナを扱う時に魔法のスタッフが必要不可欠だ。
スタッフがないと目に見えないマナをどれくらい、どのように扱えばいいのか調整するのが難しいからだ。
だが、アリシャは感覚的にマナの変化と流れを感知し自身の意志でマナを制御することができた。

「てめぇ、うるせんだよ!」
「はあ?おめぇに言われたくねーよ!」

教室の中は騒がしくなった。同級生同士の喧嘩のようだった。
野次馬が次々に教室を訪ねてきた。
互いに向かって怒鳴りあっていた2人は、勢いで魔法のスタッフを取り出した。

生徒たちは動揺し、2人を止めようとした。
魔術師たちが魔法を使用して戦うとなると、周囲に多大な被害を与える可能性があるからだ。
周りにいた生徒たちは必死に止めたが、2人は理性的な判断ができないくらい興奮していた。
2人の間のマナの流れがだんだん激しくなってきた。

生徒たちは目を閉じ、次の瞬間、衝撃を覚悟した。
しかし、いくら待っても2人の魔法のスタッフからは何も起こらなかった。
2人は睨みあったまま杖を相手に向けていただけだった。

「ど、どういうことだ?」

2人の顔は真っ赤になった。
何も起きないはずがないのにという顔をしていた。
その時、アリシャが野次馬の中から出てきた。

「アリシャ?」

全員が動揺している中、アリシャは涼しい顔で2人を交互に見た。

「喧嘩したいんだったら、決闘場でやってくれる?」

2人の男子生徒の顔はますます赤くなった。
その時、背中に隠していたアリシャの手の中には大量のマナが渦巻いていた。
2人がスタッフに周囲のマナを集める前に教室のマナをすべて奪ってマナの真空状態を作り出したのだ。

アリシャは振り向き、教室から出て行った。
すると、その姿を唖然と見ていた2人の魔法のスタッフから激しい火花が散った。
2人は驚き、スタッフを床に落としてしまった。
周りの生徒たちは、その姿を見てクスクスと笑った。

いつの間にか孤児院で生活していた時間より、塔で過ごした時間のほうが長くなった。
彼女はもう孤児院にいた無力な少女じゃなかった。

「アイススピア! 」

アリシャは研究室の窓際に腰を下ろして窓の外に手を出しながら叫んだ。
彼女の手のひらにマナが集まったが、爆竹が弾くような音がするだけだった。

シェーンの魔法研究室だった。
彼女は授業がない時はこうやってシェーンの魔法研究室で過ごすことが多かった。
シェーンは彼女の後見人であり指導教師だったが、彼女にとっては教師というより親友のような存在だった。

「大きく叫んだらできるってもんじゃないだろ。」

シェーンは嘲笑いながら言った。
アリシャがシェーンを睨みつける。
彼はその視線を感じると、シェーンは口を閉ざして机の上にある書類に目をそらした。

「アイススピア!」

もう一度叫んでみたが、結果は変わらなかった。
彼女はマナを直接扱う能力には優れていたが、マナを元素に変換させるのは苦手だった。

そのため、アリシャは元素魔法についてコンプレックスがあった。
マナを自由自在に操ることができても、その力をこの世に投影できないのが悔しかったのだ。

「だから君にルーン魔法を学んでほしかったんだけどな。」
「ルーンはつまらないわ。」

アリシャの反論にシェーンは苦笑いした。
シェーンは歴史上もっとも古い魔法の1つであるルーン魔法を専攻した魔術師だった。
古代戦争の前に作られたとされるルーン魔法はルーン文字を使用して動作するのだが、その原理と秘法のほとんどが人類の歴史に残されていなかった。
だから塔の研究者たちの間でも正立されていない状態であり、シェーンをはじめとする極少数の魔術師だけが遺産を発掘するかのように歴史を研究し、少しずつ領域を広げている魔法だったのだ。

「だとしたら、私が用意したプレゼントもつまらないだろうな。」

シェーンは研究室の奥から何かを取り出し、アリシャに見せた。
それは小さなブレスレットだった。
薄いブレスレットには微細なルーン文字が刻まれていた。
シェーンが直接刻んだルーン文字のようだった。

シェーンは自信に満ちた顔で近づき、アリシャの腕にブレスレットを付けてあげた。
彼女は半信半疑でブレスレットを着用したまま左手にマナを手中させた。
彼女の手のひらにマナの炎が燃え上がった。
彼女は目を丸く開いて驚いた。

「それはキャストレットだ。変換が難しいなら、マナを直接操るのも方法だ。」

シェーンの言う通りだった。
キャストレットを使用すると、純粋なマナの粒子たちがアリシャの思うままに形を変えていった。
彼女が風を思い浮かべると粒子たちは回転しながら風を作り出し、冷たい氷を思い浮かべると頑丈なマナの水晶が現れた。

これ以上ない最高のプレゼントだった。
満面の笑みを浮かべたアリシャは、シェーンに抱きついた。
シェーンは喜ぶアリシャの姿を見ていつものように声をたてて笑った。

全てが真っ黒に染まった世界だった。
この世界には光も闇もない。生命も死もなければ、時間も存在しない。

世界には光がないため、闇というものは存在ない。
ただ「無」に満ちた世界だった。

世界には生命が存在しないため、当然死も存在しない。
生命を持つものが招待される場所でもなければ、死を迎える存在が足を踏み入れる場所でもない。

世界には時間が存在しないため、永遠だった。
この不滅の世界は太初から存在し、今後も永遠に存在するであろう。

世界の永遠な闇を何度も眺めた。
ここは孤独だ。
助けて。叫ぼうとしても無駄だった。
時間に声を囚われ、闇に存在を消された。
助けて。涙を流したかった。でも、それすらできなかった。
永遠という苦痛に抑圧された。

永遠という孤独が私の全ての可能性を奪っていった。
逃げなければ…。
ここから逃げ出さなければならない。

「助けて!」

断末魔のような悲鳴を上げると同時にアリシャは目を覚ました。
目の前には自分を心配そうに見下ろすシェーンの姿があった。
また例の悪夢だ。
夢だったことに気づいたアリシャは安堵すると同時に羞恥心に襲われた。
シェーンの前で寝言を叫んだのがひどく恥ずかしかった。

「大丈夫か?アリシャ。」

シェーンはそう言いながらアリシャに優しく微笑んだ。
孤児院にいた頃から続いた時間が止まる現象は、いつしか意識を失ってしまうほど深刻なめまいを伴うようになっていた。

「私に一体何が起きているの…?」

アリシャは不安な声で話した。
意識を失って倒れたのが、今週だけで2度目だったからだ。
症状が現れる周期が徐々に短くなっていく。

彼女の体は恐怖で震えていた。
シェーンは彼女を優しく抱きしめた。

「大丈夫だ。」

シェーンの優しい声はアリシャの不安を取り除いた。
アリシャは再び深い眠りについた。

シェーンの剣がアリシャの胸を突き刺した。
剣には異界の神を封印するための古代ルーン魔法が付与されていた。
剣は一瞬で彼女の体を貫通し、心臓に触れた。
魔法が発動すると、アリシャの体は発作を起こすように激しく揺らいだ。
彼女の体を媒介として、現世に降臨しようとした異界の神が抵抗を始めたのだ。

シェーンはマナをさらに注入し、封印の完成を急いだ。
彼が一瞬でも剣を手放すと封印は失敗し、アリシャの人格は永遠に異界の次元に閉じ込められてしまうからだ。

次の瞬間、彼女の体から大量のマナがほとばしった。
異界の神の最後のもがきだった。
マナは周辺の空間を素早い速度で回転しながら、一瞬にして小さな突風を作り出した。

突風はその中にあるすべての存在を小さな単位から消滅させていった。
ローブの裾をはじめ、シェーンの手の甲や腕、足まで…。全身の皮膚と筋肉の細胞は少しずつ突風によって崩れ落ちた。
激しい苦痛にシェーンは悲鳴を上げた。だが、手に握った剣だけは離せなかった。

彼の瞳にはアリシャが身もだえる姿が映った。
ここで諦める訳にはいかない。
彼は覚悟を決めると、封印に出来る限りのマナを全て注ぎ込んだ。

封印が完成すると、一瞬で突風は消えた。
彼は消滅する最後の瞬間まで剣を離さなかった。

そして、彼の眼鏡や長剣が床に落ちた。

アリシャが目を覚ましたのは見覚えのない魔法研究室だった。

彼女は気だるい体をなんとか起こした。
意識はぼんやりして頭には針で刺すような鋭い痛みが走った。
どうしてこんなところに倒れていたのか、思い出すことができなかった。

誰かが置いて行ったと思われる眼鏡と剣が床に落ちていた。

アリシャはそっと眼鏡を拾い上げた。

少し前まで、誰かと一緒にいた気がする。
しかしそれが誰なのか思い出せない。

数日経っても、アリシャの頭から疑問は消えなかった。
消えた記憶の欠片が多すぎたのだ。

彼女の心臓には魔法の痕跡が刻印されていた。そして、彼女の腕には魔法道具と思われるブレスレットがあった。
2つともルーン魔法の痕跡だった。

研究室で発見した眼鏡と剣を眺めながら、アリシャは何か大事なものを忘れているような気がした。
アリシャは真実を明かしたい衝動に駆られた。
彼女は塔を出て手がかりを探すことにした。
ルーン魔法だけが唯一の手がかりだった。

大陸にいる魔術師のうち、ルーン魔法を扱える魔術師は一握りだ。
アリシャは噂を頼りに魔術師協会の魔術師たちや王宮の魔術師たちに会ってみたが、彼女の体に刻印された魔法について知る者はいなかった。
そんな中、大陸の辺境にある小さな村にかつて王国で最も有名だった魔術師が住んでいるという話を聞いた。
アリシャはその村に向かうことにした。

村に向かうための最後の関門「ヒルダ森」でのことだ。

だんだん近づいてくる重い足音にアリシャは目が覚めた。
いつの間にか眠っていたようだ。
彼女は近づいてくる存在との戦闘に備え、腰元の剣とキャストレットを確かめた。

森の闇を突き破って現れたのは赤い鎧を身にまとったリザードマンだった。
夜空を照らすラデカの月明りが鎧に反射し、灰白色に煌めいた。
湿潤な場所を好む種族がどうして森の中にいるのか疑問を感じたが、彼女に敵意を持っていることだけは確かだった。

リザードマンの目は何かに酔っているように揺らいだ。
その瞬間、爬虫類特有の鋭い視線がアリシャに向けられた。
リザードマンは両手に大剣と盾を持って突撃体制に入った。

「あまり相手したくないけど…。」

アリシャは腰にかけた剣を抜き、刃先が下を向くよう逆さに持った。
リザードマンはこの瞬間を待っていたかのように奇声を上げながら飛びかかってきた。

手ごわい相手ではない。
月明りが照らす夜の森にはいつもより高い濃度のマナが充満していた。
これくらいあれば十分だ。

アリシャは左手を開き、キャストレットにマナを集中させた。
彼女の体に刻印されたルーンを通して古代魔法の術式が発現される。
マナが古代魔法の術式によって共鳴し、周辺の世界を徐々に覆っていった。
彼女の左手を中心に周辺のすべての流れが止まり始めた。

森を通り抜ける風が止み、静けさが訪れた。
リザードマンの狂気に満ちた瞳と彼女の首を狙っていた剣先も止まった。
世界のすべてが一瞬凍りついたようだった。

アリシャがリザードマンに向けて足を踏み出す。
すべてが静止した世界で彼女だけは自由だった。

彼女はマナの力を利用し、リザードマンの頭上に飛び上がった。
そして彼女は兜の隙間から見えるリザードマンの目に向けて剣を振り下ろした。

リザードマンの巨大な体が地面に倒れた。
アリシャはこれで終わりじゃないと悟った。
森の陰に自分を尾行する存在が隠れていたからだった。
このリザードマンも彼らに関係しているのだろうか。

「さすがだな。」

陰の中から低い声が広がると同時に猟犬を連れた黒いマントの群れが現れた。
彼らは身元を特定されないように黒いフードと黒いマスクを着けていた。黒いマントを身にまとった群れはゆっくりアリシャに近づき、彼女を囲った。

アリシャは再びキャストレットにマナを集め、戦闘態勢に入ろうとした。

「我々はお前と戦うために来たわけではない。」

黒いマントの群れから一人の男が出て来てアリシャに言った。
群れの中で彼だけが黒いマスクを着けていなかった。
暗闇に満ちた森の中で男の顔はぼやけて見えた。
男は構わず話し続けた。

「我々は異端の力を封印することに成功したかを、確かめたかったのだ。」

男の口から出た言葉が理解できなかった。
異端の力とは何を意味しているのだろう。

「見た感じルーン魔法は成功したようだな。予想したものとは少し形が違うが、それもあのお方が意図されたことだろう。今日のところは引き下がってやる。」

男が手を上げて合図すると、黒いマントの群れは一斉に森の陰へと消えて行った。

「ちょっと待って!」

差し迫った声で、アリシャは叫んだ。
男はルーン魔法のことを話していた。
この男なら、自分の体に刻まれた痕跡について知っているかもしれない。
男は立ち止まって言った。

「そういえば、あの方がこんな事を伝えてほしいと言っていた。
お前が探している者はもうこの世に存在しない。時の魔女よ。」

男はそう言うと陰の中へ消えてしまった。
アリシャは一瞬男を追いかけようとして、やめた。

記憶の中から誰かの影が彼女を捕らえた。
シェーン…。
突然頭に浮かぶ単語にアリシャは複雑な感情を覚えた。
ずっと探していた人。
彼女は塔から持ってきた眼鏡を手にした。
シェーンの眼鏡…。
思い出せそうで思い出せない記憶は、混沌によって点滅する。

それもしばらく。再び忘却の闇が彼女を襲い始めた。
陰はいつの間にか消えていた…。

魔術師になる前、男は1人の女を愛していた。
女は天気を予測して植物を育てる不思議な能力を持っていた。
男はそれを彼女だけが持つ素敵な能力だと思っていた。
しかし、それが魔女の力であることに気づいてから、何もかもが変わってしまった。
異界の神は徐々に女の人格を追い出していった。
女は神の能力に蝕まれ、結局死を迎えることになった。

男は愛する人を助けられなかった罪悪感に苛まれた。
罪悪感は若い日の彼の髪の毛を真っ白に染めた。
男は逃げるように北の地へと旅立った。
そして、そこで魔術を学んだ。
ずっと逃げ続けてきた人生は、陳腐で静かな無色の人生だった。
ある日、男は全てを手放したくなった。
そして、最後の旅路に立った。
捨てられた神殿を眺めながら男は死を覚悟した。

次の瞬間、男に忍び寄る死の影は消え、運命のように少女が現れた。
これから神の媒介となる少女、魔女になる生贄だ。
男は死を諦め、再びこの世で生きることにする。
そして、この少女だけは何があっても守り切ると心の中で誓った。

男は約束を守った。
そして、その対価として他の世界へ消えていった。

アリシャは溢れる涙を止めることができなかった。
彼女は答えを探すことにした。
異端の力とは何か、封印は何を意味するのか、その真相が知りたかった。
そして、答えが見つかるまでは塔に戻らないと決心した。
しかし、何から始めるべきか分からなかった。
彼女が森を抜けると、そこには村があった。

その村の名前はコレン。

マビノギ英雄伝公式サイト

「アリシャ キャラクターストーリー」より

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